訪問リハビリテーション・訪問看護のICT活用①

2022年8月15日

1.テクノロジーを活用するためには、組織責任者のアップデートが必要

世界の技術進歩は凄まじく、普及スピードは急激に加速しています。顔認証や音声入力などの最新技術は、誰しもが簡便にスマートフォンで利用できるようになりました。ICT(Information and Communication Technology)という言葉は、今では日常的によく聞く言葉となっています。

しかし、日本の医療現場においてICTが活用されているとは言えないのが現状です。日本は高度な医療によって平均寿命が過去最長を更新し続けていますが、一方で平均寿命と健康寿命の差が大きな問題となっており、予防医療の重要性が増すばかりです。

私は作業療法士(Occupational Therapist:OT)として病院の勤務を経て、2012年に起業し株式会社リハビリプラス(以下、弊社)を設立、質の高い予防医療の提供を志して訪問看護ステーション リハビリプラス(以下、当事業所)を立ち上げました。当時私は、スタッフ一人ひとりの努力や能力こそがサービスの質の担保につながると考えていました。
しかし、医療サービスの質を高めようとすればするほど、処理する情報量が膨大となり、スタッフは目の前の情報処理業務に追われ疲弊していきました。結果として専門性や個別性が薄弱化してしまいました。

これは、私自身の在り方を見直す大きなきっかけになりました。
人材とは何か、リハビリテーションとは何か、本質を考えながら業務のどこに課題があるのか、会社全体を抜本的に見直しました。
結果、個別性の高い医療サービスには、単純な繰り返し業務が驚くほど多く点在しており、会社組織の質の担保は、組織体制が最も重要であり、組織幹部が作成する業務フローに依存することが分かりました。
そして、業務フローおよび手段を適正化すれば画一的な医療制度においてもサービスの質は向上できると確信しました。

本稿では、当事業所の業務フローおよびICTについて導入から現在までの取り組みについて、3回に分けてまとめます。

ひとがひとにしかできない業務に専念できるように、専門職が専門業務に注力できるように、一つの参考になれば幸いです。

 

2.ICTの目的

ICTには多くのメリットがあります。コミュニケーションの活性化や職場環境の改善、コストダウンにもつながります。現在のコロナ禍では、感染予防策の観点でも注目されています。

しかし、これは活用が進んだ後に得られる結果であって、当初の目的にはなりません。ICTを活用できるまでには相応の時間と労力が必要であり、ソフトウェアを導入すれば、すぐに業務が改善さできると期待してしまっては、混乱を招き業務が停滞してしまうので要注意です。

ICTを導入する目的は、『単純な繰り返し作業の反復を人が行わないようにする』ことに尽きると考えます。ICTは決められたルールに則って迅速に正確に作業を繰り返すことができることが最大のメリットです。

 

3.医療サービスを複雑にしている要素

医療情報の複雑性

医療情報は、住所や氏名などの個人情報に加えて、日々刻々と変化する療養状況や治療内容など非常に個別性が高いものです。また、コンプライアンスを遵守すべき重要な情報でもあります。このように医療情報は極めて複雑かつ重要なものです。

多職種連携の複雑性

医療サービスを安全かつ安定的に提供するためには、複雑な医療情報を迅速かつ正確に多職種間で共有する必要があります。
しかし、医療現場では『情報を共有する』という業務は簡単ではありません。
情報を発信する者と受信する者がそれぞれ複数人存在し、かつ多職種に渡ります。また、それぞれのスケジュールがご利用者に合わせて刻々と変動するため、情報伝達のタイミングが上手く噛み合わないことが多いのです。
このように、複雑な情報を様々なスタッフが流動的に共有している構造が医療サービスの特徴であり、業務を複雑にしている要因です。

 

4.ICTを医療現場で活用するポイント

ICTを活用する上で重要な視点は、単純な作業を見つけることです。

複雑な情報を取り扱う医療サービスにおいても『情報を伝達する、情報を受ける』という作業自体は単純な繰り返しであります。

訪問看護における情報共有業務を例に上げると、初期評価記録も経過記録も計画書も報告書もレセプトもスケジュールも、全てが『情報を発信する、情報を受信する』という単純な繰り返し作業が含まれます。この作業をICTで行うことができれば、発信者は場所を選ばず空いた時間に一度だけ情報を記載すればよく、受信者も好きな場所、タイミングで情報を確認する事ができます。また、何時の時点で誰が記録したのか、その情報を誰が把握したのか、システムの中で一目瞭然となります。

ICT活用のポイントは、『複雑な医療情報を共有する』という業務の中に、単純作業の繰り返しが隠れていることに気づくことです。

そして、複雑な業務を整理して単純明快な業務フローを作成し、少しずつICTへ移行することです。

 

<続きはこちら>
〇訪問リハビリテーション・訪問看護のICT活用②
〇訪問リハビリテーション・訪問看護のICT活用③